2010年5月11日火曜日

疼き

父の山小屋の近くを散歩する。娘と手を繋いで。娘は通りのあちこちで花を摘み、後でばぁばにあげるのだと言う。
私はそれを眺めながら歩く。歩いていて気づく。そういえばこの道は数年前まで砂利道だった。それがいつの間にか、アスファルトに覆われるようになったこと。

まだ祖母が生きていた頃。もちろんこの辺りはまだ砂利道で。だから山蟻もたくさんいた。私はその蟻が大の苦手で、どうやって避けて通ろうかといつも苦心していた。
或る日、祖母の後を追って歩いているとき、どわっと蟻が群れになって足に登ってきたことがあった。あっという間の出来事で。私は呆気にとられると共に、ぞっとした。こんな恐ろしい生き物がいるのかと、心底ぞっとした。私の泣き叫ぶ声で祖母が振り向き、祖母が手で払ってくれたが、しばらくの間、足にはひりひりとした痛みがあった。

あの蟻たちは、今頃どうしているのだろう。こんなふうにアスファルトに覆われては、巣を作るどころの話じゃぁないだろうに。
そうして目を凝らす。蟻の巣などもちろん何処にもなくて。

そうして気づく。アスファルトの、道の端っこのあちこちが、ひび割れていることに。私は耳を澄ます。娘も隣で耳を澄ましている。

ママ、道が泣いてるみたいだね。本当にそうだね、泣いてるみたいだ。土の道じゃないから泣くの? どうだろう、分からないけれど、でも、そうかもしれない。アスファルトの下にも土は在って、だから、アスファルトの下の土が、泣いているのかもしれないね。
娘は道に耳をつけ、じっと耳を澄ましている。
そして言う。うん、泣いてる。

確かに、アスファルトの道は、便利かもしれない。でも、何だろう、私たちにはそのとき、道が疼いているようにしか見えなかった。新しいのにひび割れのある道は、何処か哀しかった。

疼く道。疼く土。疼く。
アスファルトの道じゃぁ、裸足にさえ、なれない。