2010年4月15日木曜日

白い丘

朝一番。その日は確か靄がかかっていた。公園全体に靄がかかり、私たちはその中を歩いていた。その公園には桜の樹と梅の樹、その他諸々の樹が山ほど植えられており。樹は思い思いの姿でそこに在るのだった。
桜も咲き終わり、芝も青々としてくる頃、私たちはその場所を訪れた。まだ朝露に覆われた草の上を、私たちは裸足で歩いていった。彼女と撮影に出掛けるときはいつだって裸足だ。それが心地よい。そしてまた、彼女にとても、似合う。

その日は折り畳みの、古い古い椅子も私は持っていた。明治時代に建てられた家屋から出てきた代物だというそれは、本当に古くて、木の部分はすっかり飴色に変わっていた。でも何だろう、まだまだ使える代物で、それは何処かあたたかく、やわらかい小さな椅子だった。

最初椅子に座っている彼女を撮ろうかと思った。でも何処か違う。
何か違うね、と話しているうちに、彼女が椅子にもたれるようにして座った。あぁ、それかもしれない、と私たちはそれぞれの立ち位置についた。
もっと近くから撮ったものもあったのだが。最終的に私が選んだのはこの位置だった。遠く離れた、その位置から、丘陵のなだらかな線を捉えた、一枚だった。

白い丘は本当は、青々とした芝の広がる丘だった。それを焼きで飛ばした。余計なものは何もいらない、そんな気がした。
白い服を身に纏った彼女が、ただ空をぼんやりと仰ぐその姿は、小さな点のようになってそこに在る。

ねぇ私たちって、これっぽっちの存在だけど。うん。それでも存在してるんだよね。うん。それってすごいことだと思わない? 思う。これっぽっちかもしれないけど、そのこれっぽっちが欠けたらまた世界はきっと違うんだよ。今の世界を私たちは間違いなく、担ってるんだよね。うんうん。

白い丘。靄のかかる朝。朝露の匂い。私たちはそこに、在た。